臨床に役立つ返し鍼

はり、きゅう師の国家試験を受験された方は大変ご苦労様でした。



今回は国家試験に合格された方も、残念ながら来年まで持ち越しの方も、今後きっと役に立つであろう“返し鍼“を、柳谷素霊先生の『禁穴論・返し鍼法』から抜粋してご紹介していきたいと思います。



<返し鍼とは、鍼の刺激が強すぎた場合など誤った作用が起こってしまった場合、それを回復するための鍼の方法です。直しの鍼とも言います。>



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まずは【肩井】



肩井は誤って刺すと脳貧血、悶倒する、心臓麻痺を起こす。と書かれています。



肩井からの脳貧血は自身で経験されている人もあるかも知れません…



私は学生時代に自然気胸を患っているので、間違いがないよう、疑いもかけられぬよう肩背部の鍼に関しては限りなく浅く刺すように努めてきましたが、勤務時代、経験の浅かった頃は「もっと響きを出してくれ」「まだ凝っている」という注文に悩みました。



自信がない時ほど患者さんの求めに応じて鍼を刺してしまいます。



するとどうでしょう!?



ベッドから立ち上がるや否や、顔が青白くなってへたり込む患者さん…



そんな時の為にこちらを覚えてください!!!



糸竹空、手三里、懸鐘(鍼灸要法指南)

懸鐘、足三里をよく補う(鍼灸備要、鍼灸聚英、神俱集、療治之大概集)

三里、陽陵泉を補う(西儀流秘伝書)

条口、絶骨へ乱鍼する(岡田氏伝)



個人的な経験では、幸いなことに私自身の施術後に脳貧血を起こした患者さんは今のところありませんが、上司が担当した患者さんが脳貧血を起こし、その尻拭いの経験が2例あります。


どちらも足三里のみに刺鍼し、5分程の安静で回復しました。



特に座位での肩井の刺鍼は気をつけてください。



次は足三里



足三里はよく使うので誤刺の対処も覚えておいて損はないですよ。


足三里、懸鐘に鍼して人悶することあり。

と書かれています。



そんな時は!!!



・肩井に久しく留めて補うべし。



例えば肩井で脳貧血を起こしてしまった!
そして慌てて足三里に刺したら誤ってしまい、更に悶絶してしまった!!!


もう一度肩井に刺しましょう。


ただここで慌てると、肩井と足三里の無限ループが始まるので、くれぐれも落ち着いて久しく留めて補ってください。



そして【瘂門】



之に深刺して誤らば人立所に死す。



そんな時は、

人中に刺鍼、上下に移動、四方に振顫する(龍虎の術也)ことを交互に行う(技術学)
また皮下に倒して刺し、鍼柄を下にし右と左とに刺し刺動法または廻旋術を行う


しかし普通に鍼灸治療を行っていて、瘂門に深刺をしてしまうということはあまりないと思います。


特に初心者マークの方ほどそんな場面はないだろうと思ってしまうかも知れませんが、プロの鍼灸師になったからには様々な状況を想定しなくてはいけません。


臨床には最大限の想像力を持って挑んで下さい!



私も鍼灸師としてお金をいただき生活をしていますが、やはりスポンサーというものはとても大事です。


あなたが鍼灸師として実力をつけて、スポンサーになってくれた人が悪代官だったらどうでしょう?
もちろん必殺仕事人に命を狙われています。
藤枝梅安があなたのスポンサーの瘂門を狙い見事に命を奪う!


その時あなたが返し鍼を知らなかったら、自分の大事な人(スポンサー)を目の前で失うことになってしまいます。


是非覚えておいて、いざという時は人中を使ってください。



【腹中何れの穴にても鍼を立て折りたる時】



・救急車です。



返し鍼は

外陵の穴に刺して補うべし、鍼さきを折れたる鍼の方に向けて刺すべし(鍼灸備要)



なんの意味があるのかは分かりませんが、あなたが異世界転生して救急車が存在しない世界に飛ぶ可能性もあるので覚えておいて損はありません。

必要なのは想像力です。



【肺兪】


内斜鍼すれば咳嗽す、直鍼深ければ卒倒す。


これも救急車を呼びましょう。



足三里に一寸、強刺激を与ふ。とありますがそんな事より119しましょう。



これは想像力とか言ってる場合じゃないから!早く!!!



最後は2ついきます!



【大横】

誤刺した場合は、一生手上がらざるに至る。


【関元】

妊婦に誤って刺せば堕胎す。



どちらもとても怖いですが、それでも返し鍼さえ知っていれば大丈夫!



返し鍼は…



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無し。



ただただ気をつけましょう。



ネタとしては以上です。

ご覧いただき、ありがとうございました。







ここから独り言です。



方々から似たようなことを言われてきてうんざりかも知れませんが…



鍼灸治療を初めて受けるという患者さんにとっては、あなたの治療が患者さんにとって鍼灸というもの全てになってしまう可能性があることを覚えておいてください。



前述の元上司なのですが、患者さんが鍼が痛いということを訴えると、「お前は鍼が合わない体質だからマッサージで良い」と平気で言う糞鍼灸師でした。


もちろんマッサージも散々で、私が勤めていた5年ちょっとの間に肋骨骨折2件を起こすレベル。



すぐに文句を言って「鍼が合わない」というセリフは二度と言わぬよう釘を刺しましたが、肩書きだけはリハビリ室長である糞鍼灸師から鍼を嫌いにされた患者さんがどれだけいるのかと考えると今でも新鮮な怒りが湧いてきます。



その経験から、もし患者さんが自分とは縁がなかったとしても、その方が後に鍼灸を選択肢として残せるようにということを第一に考えて治療をしています。



おじさんの独り言ですが、少しでも覚えておいていただけたら幸いです。



ここまで読んでいただいてありがとうございました。
















あともう一つ、もうちょっとだけ独り言を聞いていただけるのならば…



患者さんが鍼灸を次の選択肢に入れてもらう為には、できればそれなりの効果を感じてもらう必要があるかと思います。



そのために未読の方は出端昭男先生と木下晴都先生の本を読んでおいていただきたい。



学生時代から積極的に勉強していた方は自信があるかも知れませんが、それでもいきなり現場にでると迷うこともあるでしょう。


そんな時にこのお二方の本は間違いなく支えになるはずです。



特に出端先生の『診察法と治療法』はそれだけで一通りの整形外科疾患に対応できますし、再現性のある治療の1つの完成系かと思います。

もし免許取り立ての初心者マーク鍼灸師がこの本の通りに治療を行い、それでも患者さんが効果を感じず鍼灸を苦手になってしまうのなら、それならばしょうがないかしらと私は諦められます。



東洋医学系の治療をしていきたいという方でもよほどの天才でもない限り、どこかで躓いたり、道標がほしくなる時もあるので是非とも覚えておいてください。



ここまで読んでいただいて本当に本当にありがとうございます。








































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