母の日と臂臑の灸

母の日になにか準備しようかと、先日久しぶりに連絡をとったところ加齢黄斑変性症を患ったとのことで、親がいよいよ老人的な病に足を突っ込みだしたなと震えております。


既に緑内障もあるので合わせ技で視力もだいぶ落ちることでしょう。


妻からはたまには実家に帰ったらどうか?と提案がありましたが、吉方位でなければ全く帰省する気はない親不孝者なので少しでもネタ恩返しとなるよう艾を送ります。



四診ができないのでシンプルに眼に関係する経穴にお灸をしてもらおうかと思いますが、眼疾患でお灸といえばやはり臂臑ではないかと。



臂臑を眼疾患に使うようになったのは深谷先生の発案だと師匠から教わり、十数年疑いもせずに使ってきましたが今回はネタ師匠への恩返しとして調べてみたいと思います。



深谷灸法(入江靖二著)には


主治:謡人結節(咽喉部のポリープ)嗄声扁桃炎など、眼疾患に卓効、胃病無酸症に特効、上腕神経痛や麻痺、半身不随、高血圧症。
深谷先生はこの穴について沢山の治験例や研究発表がある。自ら深谷謡人結節と呼んで賞用され、卓越した治効穴として多くの主治症を開拓された。


とあります。



ここに『多くの主治症を開拓された』とありますが、弟子の言うことですから眉毛に唾を塗りたくりながら我が家にある範囲で調べていきます。



深谷先生は1900年生まれ1974年死亡とgoogle先生が教えてくれたので、1900年以前の書籍に眼を主治するような記載があるか探します。

 

銅人経:臂臑。治寒熱頸項痀急。瘰癧肩背不得擧。可灸3壯。針入3分。


百症賦:兼五里能愈瘰癧。


鍼灸大成(浅野周訳):寒熱、腕が痛くて上げられない、リンパ結核、頸項部の硬直などを主治する。


なし。

もう既に手詰まり感…


 
あとは穴性から調べてみようかと、家にあった出どころの分からない資料です。
 

1.鍼灸学腧穴学(上海中医学院)-人民衛生出版社1962年8月
2.鍼灸精焠(李文憲編著)ー旋風出版社1974年4月
3.鍼灸学(上海中医学院編)ー人民衛生出版社1974年7月
4.実用鍼灸学(天津中医学院)ー天津科学技術出版社1981年1月
5.簡明鍼灸学(楊明遠編著)ー黒竜江人民出版社1981年6月
6.常用腧穴臨床発揮(李世珍著)ー人民衛生出版社1985年11月
7.鍼灸腧穴手冊(楊子雨編著)ー山西科学教育出版社1986年3月
8.臨床鍼灸学(徐苯人、葛書翰編著)ー遼寧科学技術出版社1986年9月
9.鍼灸学(長春中医学院主編)ー湖南科学技術出版社1987年8月
10.鍼灸集錦(鄭魁山編著)ー甘粛科学技術出版社1988年12月
11.鍼灸学(楊甲山主編)ー人民衛生出版社1989年1月
12.中国灸療法(章逢潤、耿俊英主編)ー人民衛生出版社1989年2月
13.鍼灸腧穴学(楊甲山須編)ー上海科学技術出版社1989年10月
14.経絡腧穴学(李海燕、鄭天徳編著)ー華夏出版社1993年4月
15.鍼灸経穴学(楊維傑著)ー楽群文化事業有限公司出版1993年10月
16.百症鍼灸用穴指南(同建庭等編著)ー中医陳古籍出版社1993年12月


上記の本に書かれた穴性がまとめられているもので、そこには


【臂臑】
3.通絡、明目
8.通絡明目、行気散瘀
9.疏筋活絡、清熱明目
11.理気消痰、清熱明目
12.祛風通絡、明目止痛
13.通経、活絡、明目、散結
14.祛風通絡、清熱明目
16.清熱明目、祛風通絡


因みに他の大腸経の経穴も調べると、


澤田流では麦粒腫の特効穴とされている【二間】には明目の記載なし。(清熱はあるので効くだろうけど)


みんな大好き面目は合谷に収むの【合谷】
11.清熱解表、明目聡耳


【偏歴】
11.明目聡耳


【手三里】
11.清熱明目、理気通腑
13.調腸腑、通経絡、清頭明目



大腸経の並びで見るとやはり【臂臑】は明目が多いようです。

そして楊甲山主編の鍼灸学だけ他の大腸経の経穴でも明目の記載があるのも気になりますが。


ただここにあるのは全て深谷先生の没後のものだけなので参考にはならず…
寧ろ深谷先生逆輸入説もでてきました。



いよいよ苦し紛れで、澤田流の鍼灸治療基礎学を見ると


上腕神経痛または麻痺を治し、三角筋リウマチ及び上肢の挙がらざるを治す。


と、眼に関係する記載はないですが、


鍼灸聚英に「手の陽明の絡。手足太陽陽維の会」と書かれていました!


手足太陽経との交会であることが眼に関係するかも知れません!


ここから深谷先生は眼疾患に応用を考えたのかしら?



鍼灸聚英(1529年)はもう図書館開かないと調べられないかなーとGoogle先生に相談したら出てきました!(北京堂より)


臂臑:肘上七寸、肉端、肩下一寸、両筋、両骨、罅陥宛宛中。平手取之。手陽明絡。手足太陽、陽維之会。銅人、灸三壮、鍼三分。明堂、宜灸、不宜鍼、日灸七壮、至二百壮。若鍼、不得過三~五分。
主、臂細無力、臂痛、不得向頭、瘰癧、頚項拘急。


残念ながら鍼灸聚英にも眼に関わる記述はなし。



うーん…本格的に行き詰まってしまったので終了!



そもそも場所的に自分でお灸しにくいし!

母親にさせるのに臂臑なんか使わんわ!



もう足三里と三陰交でいいでしょ。



足三里は十二穴歌に『年過三旬後、鍼灸眼便寛』と書かれているし、
加齢によるものなら三陰交で脾肝腎なんかいい感じになるだろうし。


足三里と三陰交は私自身が昨年末からお灸を続けていまして、過去最高くらいに調子が良くてお酒をぶがぶ飲んでも全然大丈夫なんです!



花粉症もほとんどでないので調子にのってツイートもしましたが、その後ヒノキのシーズンになっても現在大量に飛んでいるらしい黄砂でも薬は飲まずに生活できています。



今までも不調だなと思った際、不定期に鍼灸はしていましたが証をあれこれ考えるより脳死状態で毎日お灸している方が調子良いです。



これは自分が今までやってきたことを考えると認めたくない部分もありますが、
一応この上でキチンと証を立てて鍼灸をすれば更に良いかも知れません。と付け加えておきます。


あと私の体質が肝強め、脾弱め、油マシマシ好き。なのも脾胃を重視したお灸が効果ある要因かも知れませんが、それにしても元気。



この調子でいくと原志免太郎先生は疎か、万平さんを超える250歳まで生きてしまうのではないか?と心配になるレベルです。



多少熱かったり、火傷したとしてもセルフケアとしてこんなにコスパが良いものはないと思いますが、お灸やりませんか?


母へ。